私と交際してください

あ、あ、これは、ほら、アレだ。
社交辞令、や、ちょっと違う?
じゃ、リップサービス、それも違う?

 

小粋な会話っていうやつ?

 

 

――――ただの冗談ですよね〜

 

 

わかっていながら、私の頬っぺたは熱い。

 

やだなぁ、鈴木さんビールで赤くなったと思ってくれないかな。

 

うつむきながら、ホワホワと湯気をたてている、肉じゃがを箸にとった。

 

 

 

「お、おいしー!鈴木さん!この肉じゃが、ジャガイモが、すごい!」

 

 

 

なにこれ、じゃがいもの味が違う。

 

 

 

「たしかに美味しいですね」

 

 

 

鈴木さんは目元を緩めて笑う。

 

うん!やっぱり美味しいものを食べると、人って微笑んじゃうよね!

 

鈴木さんも例外じゃないのね。

 

私もほっくりジャガイモを頬張りながら、ほへへ〜と笑う。

 

緊張とか落ち込みとか混乱が一気に吹き飛んじゃう。

 

 

 

「すっごく美味しいです」

 

 

 

私は目を輝かせて、お刺身を持って来たおかみさんにも話しかけた。

 

 

 

「北海道のある農家さんから取り寄せているの。おイモがおいしいでしょう?ウチのひとが美味しくしたわけじゃないのよ」

 

「素材もいいですけど、味付けもすごくいいです。板前さん、農家さん、ありがとうです!」

 

「ありがとう。たくさん食べてね」

 

「は〜い!」

 

 

 

出てくる料理、全部美味しくて、私はニコニコだった。

 

その後はお説教をされることもなく、鈴木さんが私に話をふって、私が答えるという形だった。

 

なんだか就活の頃の面接を思い出すようなやりとりだったが、(ご実家はどこですか?小田原です。ご兄弟は?ひとりっこです等)美味しいものを食べながらなのだ。

 

まったく苦にならない、というか楽しかった。

 

 

 

「そろそろ帰りましょうか。お化粧直ししますか?」

 

「あ、はい!」

 

 

 

私は慌てて化粧室に向かった。

 

あ――あ、予想通り、全壊とまでは言わないが、イケメンの前にさらす化粧じゃない半壊女が鏡に映った。

 

もう、いいや。
だってもともとの素材がたいしたことないんだし。

 

 

こういう時、女子力高い人はキレイなまんまなんだろうなぁ……

 

例えば、紗江先輩、御園さん。
そういえば、御園さん早く帰ったけど、鈴木さんとデートじゃなかったんだ。

 

習い事かな?

 

 

私はもうあきらめて、唇にアプリコット色のグロスをのせただけで、化粧室を出た。

 

 

鈴木さんはもう帰り支度万端で引き戸の前にいる。

 

う〜ん、和風の余計な装飾のない、どこかストイックな感じのする建物と、鈴木さんって似合うかも。

 

 

 

「あの、お勘定を……」

 

「ごちそうさま。おいしかったです」

 

 

 

おかみさんとカウンターの奥の板前さんに声をかけ、彼はお店から出てしまった。

 

「必要ありませんよ」

 

「あの、でも、でも」

 

 

 

私が化粧室に行っている間、鈴木さんは精算を済ましていて。

 

こういう時、どうしたらいいんだろう?

 

あんまり主張するのはかえって失礼?

 

でも、ずーずーしい子とは思われたくない。

 

 

 

「私から誘ったんです。年上なんですから、気にしないで下さい」

 

「……すみません。御馳走になります」

 

 

 

お店の前で払う払う!というのも気が引けて、お言葉に甘えることにした。

 

ペコリ。お辞儀をした私に感じる視線。

 

じーっと見られているんですけど…

 

 

 

「あの……?」

 

 

 

静かな表情で私を見つめる鈴木さん。

 

 

 

「木下さん、私とつきあっていただけませんか?」

 

「……? どこにですか? シメのラーメンとかですか?」

 

「まだお腹がすいてるんですか?」

 

「いいえ!満腹です」

 

 

 

鈴木さんは、また、じ――っと私を見る。
ハッキリしないんだけど、なんか微かに面白がっているような?

 

 

 

「ラーメンではありません。つきあってとは」

 

「………?」

 

 

 

 

「私と交際して下さい、の意味です」