待ってます

ランチの後は10月の定例報告会議の準備をして、その会議の後片付けをしていたら、

 

 

 

「木下さん、今日、私どうしても早く帰りたいの。この後の仕事、お願いできるかしら」

 

 

 

と御園さんに言われた。
やっぱり押しつけられているような……。
でも、誰だって早く帰りたい日はあるし、別に私はなんにも予定がないし、いいか……。

 

デートの一つもない自分。
最後にデートしたの、いつだっけ?
大学の時の彼と?
それ何年??

 

あ、入社してすぐ、第2部の大滝さんに、お食事2回誘われたよね。

 

あれ、デートだったんだろうか?
ただ、会社帰りに飲みに連れてってくれただけ?

 

 

彼氏は欲しいとは思うけど、恋って色々、疲れるもんなぁ。

 

 

頑張らなくちゃいけないことが、たくさんあるんだもん。

 

おしゃれとか、楽しい会話を心がけるとか、相手に気を使うとか。

 

それで頑張ったからといって、長続きするとはかぎらないし。

 

 

こんなんで、私、結婚できるのかなぁ?

 

種蒔いて、お水をあげて、のんびり待っていると結婚相手が育っているってことにならないかな……。

 

二葉さんはお子さんもいるから(私と3歳しか違わないのに!)そうそう残業できなくて、私が後を引き受けて。

 

ま、今日は独りぼっちの残業じゃないし(フロアの遠くだけど3人残っている)なんたって台風来てないしね。

 

自分のキーボード入力している音がやけに響く。

 

 

 

 

 

 

「まだ残っていたのですか?」

 

「えっ?」

 

 

 

集中していたから、声をかけられて驚いた。

 

 

 

「もう帰った方がいいのでは?」

 

「あ、はい、そうですね」

 

 

 

あれ?なんかこれ、前にもした会話……って、鈴木さん!

 

思わず慌てて椅子から立ち上がる。

 

 

 

「また残っているのですか?」

 

「すみません……」

 

 

 

いつのまにか、彼が私の後ろにいた。

 

なんだろうこれ。
有能社員、無能社員を叱る図、まさしく、そのまんま。

 

 

 

「あ、はい。ですけど、もう終わります!」

 

「どれくらいで?」

 

「後、10分もかからないです!」

 

「では、待ちます」

 

「へっ?!」

 

「早く終わらせて下さい」

 

 

 

彼はこの前使った隣のデスクに座って、携帯のチェックを始めた。

 

待つ??
なんで、待つの?
えっ?なんで、どうして?

 

よくわからない展開なんだけど、隣に座る鈴木さん無言の威圧感に怯えて、訊ねることも出来ない。

 

 

 

「お、終わりました!」

 

「16分かかりました。見積もりより、オーバーしています」

 

「す、すみません!」

 

「この後は空いていますか?」

 

「は?へっ?、あ、空いていますけど……?」

 

「食事に行きませんか?まだでしょう?」

 

「はい。あ、え、はい?」

 

「用意してきて下さい。守衛室の前で待っています」

 

 

 

あの台風の日と同じように、サッサとフロアを後にする鈴木さん。

 

食事??

 

『食事に行きませんか?』って?

 

私、食事に誘われたの!?
えええ―――?!

 

ちょっと、えっ、やだ!
えええ、怖い。
私また、お説教されたり、ほめられたり、気持ちが上がったり下がったり、バカっぽいって言われるの?!

 

どうしよう!!?

 

だけど、待っていますと言われて。

 

いまさら鈴木さんを無視するとか、断わるとかできる勇者じゃないもん、私!