恋愛ニート

あの台風の日から2週間たった。

 

私はあれから一度も鈴木拓也さんに会っていない。

 

もともとうちの会社の心臓部ともいえるビジネスソリューション部は、お客さんの会社に行って仕事をする。

 

ビルと建てる業者が現場に行って仕事をするように、うちの社員は顧客の会社内部のシステムを作るのだ。

 

だから、デキる社員ほど会社にいない。

 

とはいえ、あの日のように大きめのトラブルが発生すると第1、2、3部それぞれの役職つきが会議のために集まったりする。

 

あの日はそれで、鈴木さんも本社で残業されていんだと思う。

 

 

 

「ねえ、なんで中島君もついてきたの?」

 

「俺、1人で飯食うの好きじゃないんだよ」

 

 

 

紗江先輩が歩いていたら、中島君が声をかけてきたらしく、どういうわけかくっついてきたのだ。

 

 

今日は楽しみにしていた、宮内紗江(ミヤウチ サエ)先輩と久しぶりのランチなのに。

 

私の教育係だった紗江先輩は、同じ第2部にいたんだけれど、配置換えで経理に行ってしまった。

 

仕事の方は、紗江先輩がしっかり引き継ぎをして下さったので、それほどオタオタしなくてすんだけれど。

 

私は心細くて淋しくて。
このごろやっとそれにも薄れてきた。

 

「中島君てなにげに淋しがり屋さん?ウサギみたいにひとりぼっちにすると死んじゃうタイプとか。そう言えば顔もウサギっぽいかも」

 

「まあ、可愛い系だとはよく言われる。男としてはちょっと微妙だけどね」

 

 

 

中島君は175センチくらいの背なのに、それを感じさせない愛嬌があるんだよね。

 

大きなパッチリ二重の目、羨ましくなるほどのまつ毛。

 

イケメンなんだろうけど、その印象より『可愛いですね〜』の方が先にくる。

 

中高女子校育ち、大学時代は男子がいることに慣れる為のリハビリ期間みたいだった私。

 

その私でも、中島君はとっても話しやすい。

 

 

 

「席がなくなっちゃうし、急ぎましょ」

 

 

 

紗江先輩はサッとお店に向かって歩きだした。

 

彼女は一見地味な印象。
だけどよく見ると、深みのある色や、体のラインに絶妙に合う服を着ている、隠れオシャレ女子。

 

アクセサリーの使い方もセンスが良くて。

 

そして仕事では

 

 

「お金の流れから会社経営を考えるのが好きみたい。一生仕事していきたいし」

 

 

と、資格にどんどん挑戦し、その姿勢をかわれて狭き門の経理に配属された。

 

 

「アラサーのおばさんよ」

 

 

と言う29歳だけど、2、3歳は若く見えるし、なにより年齢とか関係ない、物静かな雰囲気が素敵なのだ。

 

感情的にならな過ぎて苦手という人もいるけれど、その冷静さが、考えがまとまらなくて困る私には、憧れの先輩。

 

 

 

「俺、来月の11月末に今のプロジェクト離脱するんですけど、次が決まったんです」

 

「あら、良かったわね」

 

「はい、2か所から引きが来てて、今日、面談して最終決定になりました」

 

 

 

私と中島君の同期つながりから、紗江先輩も彼と顔見知りになった。

 

中島くんは同期の中では注目株らしい。

 

「使いやすい人、仕事ができる人なら、どんどん声がかかるけど、使えないと判断されれば引きが来ないから、自信持っていいと思うわよ」

 

 

 

紗江先輩の言葉に、中島君は嬉しそうに頬を染めている。

 

中島君も私も新卒1年目が終わり、ガッチリと業務の中に組み込まれていく。

 

実力の差がどんどんでてくるんだろうなぁ。

 

 

 

「彩ちゃんは?何かニュースある?」

 

「んー…、第3の鈴木拓也さんって知ってます?」

 

「えっ?なんで木下が鈴木さん?どんなつながり?」

 

 

 

ランチプレートの、チーズのせ鶏のロースト・トマトソースを受け取りながら中島君が言う。

 

女の子がほとんどのカフェに、違和感なく座っている中島君だけど、食べるものはやっぱりガッツリ肉なもの選ぶんだなぁ。

 

 

 

「知ってるの、中島君?」

 

「知らない人ソリューションにいないよ。若手の一番。マジ仕事できるし。なに、イケメン鈴木さんに恋しちゃった?」

 

「違います〜」

 

 

 

あんな方、好きになるなんて怖れ多い。

 

おつきあいの初心者、恋愛二ートな私では太刀打ちできません。

 

 

 

「前に台風が来た時、仕事が終わらなくて助けて下さって。でも電車止まっちゃって、そしたら車で送ってくれたの」

 

「えっ?俺と階段で会った日?」

 

「そう、あの時」

 

「鈴木さん、厳しい人だけど、そういう気遣いするのよね。……彩ちゃん残業って多いの?」

 

 

 

心配そうに紗江先輩に訊ねられる。