30代半ば?

「つまり、あなたは貧乏くじを引かされたってことですね」

 

「あ、いえ、そんな、誰かがしなくちゃいけないんですし」

 

「3人でやれば、もっと早く帰れたでしょう」

 

 

 

そんなこと言われたって、二葉さんはママだからね。
いくらダンナさんがお子さんを見てくれてるっていったって、こんな日は早く帰らせてあげたかったんだもん。

 

御園さんは内線電話で「お迎えが来たの、お先に〜」で帰っちゃったし。

 

年上の先輩に言えないよ。

 

 

 

「それにあの資料ですが、レイアウトなど凝り過ぎだと思います」

 

「えっ…」

 

「緊急会議用のものですし、もっとサラッと箇条書き的でいいかと」

 

 

 

えっ、なにそれ、ものすごく気持ちが落ちていく。

 

 

 

「そうすれば、もっと早く帰れたでしょう」

 

 

 

見やすいように工夫して。
数値だけじゃわかりにくいかなって、グラフにして。

 

文字の大きさや色を変えたり、枠を考えたり、私なりに頑張ったのに……。

 

 

 

「仕事はその時その時、求められるものが違います。見極められるように努力して下さい」

 

 

 

鈴木さんの端正な横顔。
だけど血の通っていない彫刻みたい。
冷やかで近寄りがたい。

 

 

 

「はい……、すみません」

 

 

 

ションボリと体の力が抜けていく。
座り心地の良いシートのはずなのに、すごく良くない。

 

「ですが、センスは良いと思います」

 

「えっ?」

 

「レイアウトもグラフも見やすく出来ていました。後々見ても、すぐに思い出せるような配慮がされていたと」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

 

 

きゃー!
褒められちゃった。
仕事が遅くて、同じ部の人に迷惑かけてばかりだから、みとめられると嬉しい。

 

頬が緩んで、思わず「えへへ〜」と笑っちゃう。

 

触り心地のいいシートをナデナデ。
うん、とっても高級感がありますね〜!

 

 

 

「でもそれだけでは駄目です。資料から読みとる力を付けて下さい。 私は今日の午前の会議、途中から出たのですが、その前半部分で流されていたらしい問題点を見つけました」

 

「えっ……」

 

「あなたは疑問点や問題点を見つけましたか?」

 

 

 

そんな……、私が問題点なんて見つけられないよ。

 

お偉いさんじゃないんだから。

 

 

 

「業務のなかから『問題点』や『宝』を探しあてられる人。私はそれが会社に必要な人材だと思っています」

 

 

 

嬉しかった気持ちがぺしゃんとしぼんでいく。

 

またシートの座り心地が悪くなった。

 

「木下さんは入社何年目ですか?」

 

 

 

この人の部下になったら、成長するだろうけどゲッソリしそう。

 

自分にも厳しそうだけど、人にも厳しいもん、なんてうなだれて考えていたら話題が変わった。

 

 

 

「2年目です」

 

「2年目……、にしてはパソコンに慣れてますね」

 

「あ、はい。好きなんです、パソコンでの作業。大学の時、自分のホームページを作りたくてパソコンを始めたんですけど」

 

「そうですか」

 

「鈴木さんは何年目、というか、おいくつなんですか?」

 

 

 

本当に、この人何歳なんだろう?
言うことがしっかりしてるから、見た目より歳がいってるのかな?

 

30代半ば?

 

 

 

「私はもう少しで30歳になります」

 

「えええ?!じゃあ20代?!」

 

「そのリアクションは、私が老けて見えると言うことですか?」

 

「あ、やっ、ち、違います!」

 

 

 

どうしよう、失礼なことを!
車の中という密室で、気まずいよぅ……

 

でも鈴木さんの表情は淡々と変わらない。

 

 

 

「気にしないで下さい。女性は歳より上に見られたら嫌でしょうが、男はそうでもありませんから」

 

「そう、なんですか?」

 

「落ち着いて、しっかりして見えるということでしょう?よく言われますし」