夜のオフィスでの出会い

「ひゃぅ!」

 

 

 

突然電気が消えて驚いた。

 

台風接近ですごい風が吹いてるし、停電したんだなと頭でわかっても、真っ暗な社内に少し不安になる。

 

困ったなぁ……、この資料、仕上げられるかなぁ。

 

パソコンのバッテリーどれくらいもつんだろう?

 

内勤だから、電源なしでパソコンを使ったことがない。

 

見当がつかないんですけど……。

 

泣きっ面にハチ。
大型台風に停電。

 

目が慣れない暗闇の中、雨粒がオフィスの窓にビシビシと当たる音がする。

 

数年ぶりの関東直撃の台風。
深夜から夜明けにかけて上陸するおそれ、らしいんだけど、今は21時を過ぎたところ。

 

午後に早めの帰宅をうながす一斉連絡がまわって、定時過ぎからどんどん人が帰っていた。

 

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

 

ビックリして椅子の上で飛び上がった。

 

だって、このフロアは私以外は帰ったから、人の声がするとは思わなかったんだもん。

 

 

 

「あ、あ、はい。すみません、大丈夫……」

 

「まだ残っていたのですか?」

 

やっと暗闇に慣れてきた目。
廊下に淡くあかりがある。
あっ、きっと非常口の、人が駆け込んでいる絵の、あの光だね。

 

 

 

入口に立つ男の人はスラリと背が高い。

 

微かな逆光でも、足が長いのがよくわかる。

 

 

 

「もう帰った方がいいのでは?」

 

「あ、はい、そうですね」

 

 

 

私は困ってしまって、へにゃ〜と笑うしかなかった。

 

だって、この仕事、引き受けちゃったから帰れないよ。

 

こんな真っ暗なところで女の子が一人で仕事するのは、正直、怖いけど。

 

 

そのスタイルのいい男の人は私のデスクのそばまでやってきた。

 

窓の外も真っ暗。
停電はこの一帯全部らしく、いつもは道路の向こうに見えるビルの窓のあかりもない。

 

このフロア、私のパソコンの光だけが、まわりを照らしている。

 

 

 

「電車は大丈夫なのですか? 運休している路線もかなりありますよ」

 

 

 

私が使っている路線を言うと、その人はひとり言のように「まだ動いていますね」と言った。

 

てっきりその人は帰ると思ったから、パソコンの光の中に入ってきて、私はまたまたビックリしてしまった。

 

暗い場所では気がつかなかったけど。

 

お、おっ男前〜!
この方、かなり整ったお顔でいらっしゃいます。

 

とはいえ、あまり好みのタイプではないなぁと思った。

 

だってなんだか、ピシッとしてて厳しそうな人だし。

 

 

 

「とりあえず、保存をしたほうがいいです。突然の停電でパソコンがトラブルを起こすことがありますよ」

 

「えっ、そうなんですか?! すぐにします!」

 

 

 

大慌てでパソコンに向かったけれど、なんとな〜く、彼の目がそんなことも知らないのか、と冷ややかになった気がした。

 

だって、まだ新卒で社会人になって1年半しかたってないんだから、教わったことしか知らないんだもん。

 

 

 

「それに、仕事をするのも大切ですが、この台風です。身の安全を考えるのも必要では?」

 

 

 

うっ、怖い。
心配してくれているというより、叱られてる?

 

彼の無表情の迫力に、気持ちが引っこんでいく。

 

 

もしこんな、いかにも仕事できます、テキパキしていますって人が合コンで隣に座ったら、私は気後れしてカチンコチンに固まっちゃうだろうなぁ。

 

……合コン自体、苦手なんだけどね。

 

 

 

「あと、どのくらいかかりそうですか?」

 

 

 

どうでもいいことを考えていた私に、その人は静かだけど、キツめの口調になった。

 

うっ、イラッとしていますよね……。

 

 

 

「あの、この書類、明日の朝一の緊急会議に必要なんです」

 

「朝一の、ですか…。あなたが、まとめていると」

 

「はい。なので間に合わせないと……、もう少しですし」

 

 

 

その人はふーっとため息をつくと、こめかみに手をやった。

 

眉間にシワが寄っちゃってる。
この人、やっぱりおっかない。

 

 

 

「お手伝いします」